ロータリーの友 10月号 特集「地域社会の経済発展」から
『若者の自立促す 支援のカタチ ~貧困の連鎖を断ち切るためにできること~』
地域社会の経済発展において、若者は貴重な存在。しかし、保護者や行政などから適切な養育が受けられず、貧困に陥る若者がいます。児童養護施設を退所と同時に、社会に放り出されることになる若者に必要な支援を提供し、自立を手助けすることは、まさに、地域社会の経済発展にとっても重要なことです。そうした若者たちが経済的、社会的に自立できる道を切り開いていくために、ロータリーには何ができるのでしょうか。 |

少子化の影響もあり、2023年3月末、高卒新卒者の有効求人倍率が過去最高の3.49倍を記録。多くの企業で人手不足がますます深刻化しています。それにもかかわらず、2人に1人の割合で貧困状態に陥っている若者たちが存在します。児童養護施設の出身者です。
なぜ施設出身者たちの多くが、このような状況で、若くしてワーキングプアになりやすいのか。その要因は「キャリア教育の機会」と「ロールモデルとの縁」に恵まれていないこと。就職はできても早期に離職してしまい、フリーターの状態が長引いてしまうことにあると考えています。
ワーキングプアに陥る若者の実態
現在、日本には児童養護施設が約600ヵ所あり、約2万5,000人を超えるともいわれています。施設に入る子どもの背景は、昔は親の死亡や行方不明が多かったのですが、今は虐待による保護が圧倒的に増えてきており、全体の約半数を占めています。
児童養護施設の子どもたちの多くは、18歳になり、高校を卒業すると施設を出ることになります。2024年4月より年齢による一律の利用制限は緩和されますが、その後は就職進学にかかわらず、自立が求められます。虐待が背景にある場合、実の親を金銭面や精神面で頼れるとは言い難く、多くの子どもが退所後、自立することになります。

施設の高校生たちは卒業後、約4割が進学します。ここ数年で、給付型の奨学金を受けやすくなったため、以前のように進学するなら借金をしなければならない、という状況は緩和されつつあります。ただ、学費などは賄えても、日々の生活費は自分で働いて得なければならず、進学しても、学業とアルバイトの両立に耐えられないなどの理由で、進学者の約2割が中退しています。
就職者に関しても、高校卒業時までにやりたいことが見つからなかった若者たちは、仕事の内容よりも、住み込みで働ける会社、といった条件優先で就職活動を行う場合が多く、入社後に仕事にやりがいを感じられないなどのミスマッチに発展し、早期離職に至りやすくなります。

中退や早期離職が起きてしまうと以降、正社員としての就職の難易度が上がり、結果的に多くの施設出身者が非正規雇用の、不安定な収入生活に陥ることになります。いわゆる「ワーキングプア」です。東京都が昨年発表した都内の児童養護施設などの退所者への月収調査では、約5割が月収15万円未満であることが判明しました。最低賃金が日本で一番高い自治体でこの数字です。やはり、安定した雇用形態で働けないと、厳しい収入状況になってしまうことがよく分かります。
現状を、当団体では「かわいそう」と感じるだけではなく、少子化、労働人口減少の日本社会においては「もったいないことになっている」と考えています。この課題を解決すべく、これまで約10年、この若者たちへの就労支援を行い、大事なポイントが少しずつ見えてきました。
キーワードは「未然防止」と「自己決定」
大切なのは「未然防止」です。高校3年生の進路選択の時に、将来自分はこういった仕事をしてみたい、こんな社会人になりたい、こうした「目標」を持てた状態で進学や就職ができれば、未来が描けているので、早期にドロップアウトすることなく、力強い歩みが実現しやすいと考えています。また「自己決定」というキーワードも大きな鍵です。誰かに決められた、促されるだけの人生でなく、自分がどのようなキャリアを築いて生きていきたいのかを自分自身で決めていくことが肝要。たとえつらいことがあっても「自分で決めた人生だから」、そう思えれば、それが支えになるはずです。
そのために必要なのが、企業のサポート。中高生時代に、地域のさまざまな企業と関わりを持ち、仕事の見学や体験ができること、見学や体験を通じて各社の経営者や社員から励まされること、社会人として大切な価値観を吸収できること。企業側がこうした機会をしっかりと提供することで、大人になった本人たちの社会参画の精度が高まると考えています。親が無職や生活保護受給者といった環境で育ってきた子も少なくありません。社会人のロールモデルに多く触れることも必要なのです。
「未然予防」と「自己決定」を意識しながら、施設の中高生たちへ多種多様な企業見学や体験を可能とする機会を提供してきた結果、そこでお世話になった会社に就職したいという高校生たちが出てきました。そして、このようなご縁の中で就職が実現した場合、1年以内離職率は約20%。これは東京都が調査した施設出身者の1年内平均離職率(約43%)に比べ、とても良いスコアとなっています。離職率が高い要因は若者本人だけにあるのではなく、就職活動における健全な環境を、今の日本社会が提供し切れていないことが大きな理由であることを、当団体としては実証し始めています。
負のスパイラルから抜け出すために
私たちNPO法人フェアスタートサポートは、各地の児童養護施設と企業とが就労支援で連携していくこと、その促進とコーディネートにも力を入れる団体です。現場で活動している立場から考えるに、施設の子どもたちは「人と環境に恵まれてほしい」のです。それがしっかり担保されれば、いわゆる貧困の連鎖と呼ばれる、負のスパイラルから抜け出しやすくなると思うのです。私たちにとって、マッチング先としては人を「使おう」と考えている企業ではなく、「育もう」と考える企業がベスト。社会奉仕への思いが強く、職業倫理を重んじる実業人、専門職業人の集まりであるロータリーの会員企業は、親和性が高いと考えています。各地の企業が、自分たちの地域の子どもたちの支援に貢献していくことは、とてもすてきなことではないでしょうか。こうした働きが日本全体に浸透していくことを願っています。

当事者の生の声も紹介されていましたので、掲載します。お時間がある時に、御一読下さい。
○
(一社)コンパスナビ事務局長 ブローハン聡さん(PDF)
○
大宮東RAC 2022-23年度会長 田中れいかさん(PDF)